映像の質を決める要素
ちょっと前の「HDRって何?その①」というコラムで、最近量販店でよく見かける4KテレビのHDRについて、映像を使った説明をしました。今回は、少しだけ技術的なお話しをします。
おさらいですが、"HDR"とは、High Dynamic Range(ハイ・ダイナミックレンジ)の略で、「輝度」(明るさ)を示す信号の「明暗の幅(ダイナミックレンジ)」を広げることにより、高画質化を図るものです。
なぜ、HDRによって画質が良くなるのでしょうか? その前に、映像の質(クオリティ)を決める要素は何なのか?を説明します。
★映像の質を決める5つの要素とは?
図1をごらんください。一般に、映像の質(クオリティ)を決める要素は以下の5つであると考えられています。
① 解像度 (二次元解像度) ・・・・・・ 画素の細かさ
② 階調 (三次元解像度) ・・・・・・・ グラデーション等のスムースさ
③ フレームレート (四次元解像度) ・・ 1秒間の画の枚数
④ 色域 (色の表現範囲) ・・・・・・・ 色彩の鮮やかさ
⑤ 輝度 (明るさの表現範囲) ・・・・・ 明暗の差
図1 映像の質を決める5つの要素
図の中で、青のマット部分は、現在のHD放送などで、すでに実現されているスペックです。オレンジ色のマット部分は、このスペックを実現すれば、ほぼ人間の見た目に近いものが表現できると考えられるもので、技術的な目標値です。
図の上側の3要素は解像度に関するもの、下側の2要素が表現範囲に関するものです。この5要素のうち、「輝度」の表現範囲="HDR"を除く4要素は、すでに国際電気通信連合の無線通信部門(ITU-R)が4K・8KのUHDTV(ウルトラ・ハイ・ディフィニション・テレビ)に向けたBT.2020(ビーティー・ニーマルニーマル)という名称で国際規格化されています。
さて、最後に残されていた"輝度の表現範囲"ですが、この数年、ここを規格化して、名実ともに高画質化しようという動きが急激に高まっていました。
いま話題の"HDR"は、それが決まれば、5要素すべてが規格化されることになり、現在のHDより格段に高画質化された映像表現が可能になる、という意味で非常に象徴的な言葉となっているのです。
今回は、これらの各要素について、なるべく簡単に説明します。
① 解像度(平面)とは
一般的に、解像度は画素の数で表します。例えば、アナログ映像時代のSD(Standard Definition)の縦486×横720(約35万画素)から、現在のハイビジョンでのHD(High Definition)1080×1920(約200万画素)、4Kであれば2160×3840(約830万画素)、8Kなら4320×7680(約3300万画素)...と、画素数が増えていくことで、精細感が増します。
画素数で比較すると、8KはHDの16倍、SDの何と約95倍の画素を持つことになります。
画素数が増えるということは、同じ面積の画面で考えると、1画素当たりの面積が小さくなるので、より、細かい表現ができるということです。
図2に4つの規格のイメージを示します。
SD解像度では何だがよくわからない形が、8K解像度だと曲線も綺麗に表現され、しっかりとした円に見えます。また、現在のHDと8Kを比べても、その差は歴然としています。平面の解像度が高くなるほど、クッキリ、ハッキリ見えるということです。
図2 解像度(平面)の説明(イメージ)
② 階調とは
一般的に、「量子化の細かさ」と言われるもので、明るさや色の表現の細かさのことです。
下の図3をご覧下さい。「量子化の細かさ」が少ない(粗い)と、図中の右下側のカラー画にあるように、緩やかなグラデーションに縞模様が出てしまいます。あくまでイメージですが、図では下方から、粗い従来の8bit(256段階)、10bit(1024段階)、12bit(4096段階)と上方にビットを拡張し、細かく量子化することで、グラデーションがスムースに表現できるようになっています。
図3 階調の説明(イメージ)
③ フレームレートとは
一般的に、「フレームレート」=コマ数、と言われるものです。画面を更新する頻度(毎秒何枚の画を更新するのか)のことです。このフレームレートが高いほど、動きがスムース(カクカクしない)に表現できます。映画でよく使われる24P(1秒間に24コマ)から、30P(今のテレビ相当)、60P、さらに120Pまで定義されています。
従来の映画では、1秒あたり24コマで更新の頻度が少ないので、大画面でパン(カメラの向きが横方向に動く)すると、カクカクしたように動きになることがあります。なお、テレビ放送(SD、HD)では、インターレースという工夫によって、送る情報量は毎秒30枚ですが、毎秒60枚相当の滑らかな動きを表現できるようにしています。
最新の研究では、8Kにおいては、現実と同等の視覚的な感覚を得るためには120P(毎秒120回の更新)が必要であるという報告があります。
図4 フレームレートの説明
④ 色域とは
表現できる色の範囲のことです。図5のCIE(国際照明委員会)カラースペクトラムを参照して下さい。
現在のHDTVで表現できる色はrec.709(レック・ナナマルキュー)と呼ばれ、図5の黄色の線で囲まれた範囲です。
それに対して、新しく定義された、4K・8K用で表現できる色はrec.2020(レック・ニーマルニーマル)と呼ばれ、図5の黒色の線で囲まれた範囲です。このように、表現できる範囲が大きく広がっています。ここで、rec.とは、recommendation(勧告)という意味です。
図5 CIE カラースペクトラム
⑤ 輝度とは
文字通り、表現できる明るさの範囲のことです。
ところで、現実世界の明るさの広さはどのくらいあるのでしょうか?
図6をご覧下さい。実世界では太陽光から星空まで10-6~109のレベル差(つまり1015のレベル差)があります。人間の視覚は一度に見られるのは106(百万倍)くらいですが、瞳孔の開け閉めで実世界のレベル差に近い1014くらいに対応できます。
一方、カメラはすでに105(十万倍)くらいのレベル差に対応できるものが開発されています(絞りでさらに範囲をスライドできます)が、これまでの液晶パネルはせいぜい103(千倍)しか表現できませんでした。メーカー各社はHDR対応ディスプレイとして、105くらいのレベル差を表現できるようなものを開発し、最近、市販されるようになってきました。それが、最近話題の"HDR対応テレビ"なのです。
図6 明るさのダイナミックレンジについて
次回「HDRって何?その③」は、この広い輝度の情報をどのように伝えて、表現するのかについて説明する予定です。