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ポスプロ技術部 発 ちょっとだけ技術なコラム 「HDRって何?その①」

2016.07.28 ポスプロ技術

HDRの概要

最近、家電量販店でもよく目にするようになった4Kテレビの「HDR」ですが、いったいどのような技術なのかご存知でしょうか?

4Kの方がHD(=2K)よりも解像度が良いことは想像できるかと思いますが、まずは、以下の2枚の静止画イメージを御覧ください。

<イメージ比較>

image1.jpg image2.jpg

どちらが、より美しいかは一目瞭然ですよね!

 左がSDR=Standard Dynamic Range(スタンダード・ダイナミックレンジ)のイメージ、
 右がHDR=High Dynamic Range(ハイ・ダイナミックレンジ)のイメージです。

HDR映像は対応ディスプレイでしか表示できないため、比較のために強調したイメージ画像です)

解像度は同じ4Kでも、HDRイメージは、空の青や桜のピンクの発色が素晴らしく、川面に映る空も鮮やかで、さらに雲や石垣の形状まで見てとれます。
4K映像は、通常のHD映像より格段に綺麗なのですが、さらにHDRとして処理することで「輝度」を示す信号の「明暗の幅(ダイナミックレンジ)」を広げることが可能となり、結果として階調性や精細感がさらに向上します。パッと見でも、上記の静止画ほどの違いがあるのです。

HDRの特徴を簡単に説明しますと2つのポイントがあります。


●第一に 「高輝度と階調性が両立できる」

HDRはSDRに比べて、明るさのピークが格段に上がりました。
「空に浮かぶ雲」や「水面のハイライト」はSDR映像では諦めていた部分です。
SDRでは明るい部分に合わせて露出を調整すれば、暗いところは真っ黒に潰れ、逆に暗い部分に合わせれば明るいところは白く飛んでしまいました。

例えば上記のイメージで言えば、暗い石垣の階調と空の階調を両立させるのが難しかったのですが、HDRでは、そのような両方の明るさを調整することで適正な露出で再現できます。

SvH_1.jpg

SvH_2.jpg


●第二に「高輝度部分にもしっかり色が乗る」
 SvH_3.jpg

従来のSDR映像では表現できる色域が狭いため、桜の花びらのように輝度が高い部分は白に近づいてしまい、リアルな色の表現ができませんでした。
それに対してHDR映像では、従来の色域を広げたRec.2020という規格に則っており、輝度が上がっても、対象物の本来の色がしっかり表現できるのです。
まさに目の前で見た映像をそのままに再現する技術と言えますね。このような最新技術にも対応するため、ポスプロの現場では以下のようなポイントに重点を置いて作業しています。


①「如何にHDRらしさを表現するか」

これが一番重要な要素だと考えています。
HDRには高輝度のコントラスト感、及びRec.2020の広色域による色彩感が規定されています。
その規定を満たさないと、魅力的なHDR表現には繋がりません。

そのため現場では上記のような「HDRとしての映像表現を活かす演出」が求められるので、試行錯誤を繰り返し、納得がいくまで「グレーディング作業」をしています。「グレーディング」とは映像の色味やトーンを調整し、演出意図に沿った世界観を作り出す作業です。
その際にはHDR対応の波形モニターを使用しますが、「色域が範囲内にあること」や「高輝度までスケール表示した輝度の確認」等について、SDRでの作業時以上に注意を払う必要性が出てきました。

image9.jpg

また、HDRではテロップの輝度についても改めて考えさせられました。
SDRでは規定される輝度レベルの上限を「白」としてテロップを入れることが普通ですが、同じことをHDRで行うと、輝度の上限が上がっているため、非常に眩しいテロップになってしまい見ていられません。
また逆に、一部の映像に適当と思われるレベルでテロップを入れると、他の映像では暗いスーパーになってしまうこともあります。つまりテロップのレベルはベースとなる映像によって印象が大きく変わってしまうのです。そこで画面上のテロップは、ベースの映像に重ねた状態で視覚上適正なレベルを探らなければなりません。


②「HDRの仕上げに技術的なハードル」

HDRの特性を活かす画作りのためには、ノイズ感を極力抑える必要があります。
折角の綺麗な映像もノイズが多くては、その魅力も半減しますよね。
ダイナミックレンジの広い撮影素材は、グレーディングを行うと隠れていたノイズを目立たせてしまうことがあります。またHDRモニターで高コントラスト表示するということも同様にノイズ感の増幅に繋がってしまう場合があります。

私はグレーディングの作業においては「ダイナミックレンジを伸ばす=ノイズ感が目立つ」と割り切り、その後ノイズを軽減するための作業を必ず行います。このように作業に手間を掛ければ綺麗な映像になりますが、これは余計な手間でもあります。この問題解決には今後のカメラ側の進化に期待したいところです。
このような手間を加える事で、HDRはより魅力的な映像に仕上がりますし、最先端の技術に携わっている実感も伴います。ポスプロ作業上、HDRはまだまだ手探りで未知数の部分もありますが、新しい技術に取り組むというのは、技術者としてのモチベーション、やりがいに直結します。

しかしPC上での比較画像は、あくまでイメージでしかありません。
SDRの従来の映像でも、コントラストが高い映像ならそれでも十分でしょうし、SDRでも似たような処理が出来るのでは? という疑問があるかもしれません。そのような疑問を抱いている方々、是非とも実際にHDR対応テレビで表現の幅の広がりを体感してみて下さい!


<予告>
HDRについての技術的な解説は後日「HDRって何?その②」でアップしたいと思いますので、乞うご期待!

image10.jpg 筆者