REPORT 現場リポート
ライブ配信業務のご紹介
今回は19BOXメディアセンターを拠点として活動している、【日本テレビライブ配信TD(テクニカル・ディレクター)】業務について紹介させていただきます。
■ ライブ配信TDとは?
ライブ配信TDは【TVer Special Live】の配信に関わる技術の取りまとめを担当しています。ちなみにTDとはTechnical Directorの略。
その業務内容は配信を実現するための準備から本番対応まで多岐にわたるため、日本テレビICTエンジニアリング部の技術サポートを受けながら知見の共有を図り業務にあたっています。今回はその概要をご説明します。
■ TVerの“Special Live”とは?
TVerのライブ配信には 「リアルタイム配信」と「Special Live」の2種類があり、私たちが携わっている「Special Live」はTVerホームページから“リアルタイム”をクリックしたページの右下のタブから視聴することができます。
■ 何が“Special ”なの?
Special Liveではリアルタイム配信と異なり、地上波だけでなくCSやBSの番組を配信することもあります。スポーツ番組が放送延長できない場合も放送枠にとらわれず試合終了まで配信するというスポーツ好きには非常にSpecialなコンテンツです。その点が支持され、コンテンツによっては100万回再生を超えることもあります。
Special Liveの映像は放送そのままの映像ではない点も特徴です。例えばテレビで放送されている「放送日程の告知テロップ」などが配信には映らないよう調整されています。
また映像や音楽の使用権利も放送とは異なるため、場合によっては配信用の映像を使用するなどの工夫をしています。
気軽に視聴可能なTVerですが、その裏側の仕組みは少々複雑です。
今回細かい説明は割愛させて頂きますが、図にすると下図のようになっています。
■ 実際の配信TD業務
1. 事前準備
TVer ・日本テレビ編成・営業・ICTエンジニアリング部・TM(テクニカルマネージャー) ・回線運用部・OAマスター・ビデオリサーチなど各所と調整し、配信用映像手配、回線や機材の利用申請などを並行して進めます。
2. 広告配信
TVerでのライブ配信において配信TDは日本テレビDX推進局ICTエンジニアリング部の技術サポートを受け、広告配信にも携わります。広告配信にはアドテクノロジー(略称:アドテク)が 広告効果を左右すると言っても過言では有りません。
アドテクとは、広告配信を効率化するシステムのことで、アド=広告+テク=テクノロジーの造語になります。
アドテクによって視聴者の年齢・性別・趣味・地域情報を元にパーソナライズした広告を配信する事が可能です。例えば飲料や日用品などに興味を持ってくれそうな視聴者にターゲットを合わせて高い広告効果を目指します。
他にも、
「この広告はCMの1番目に配信したい」
「スマートフォンには流さずPCのみに配信したい」
「関東地方にのみに配信したい」
「お酒の広告は20歳以上の視聴者のみに配信したい」
「お酒と車の広告は連続して配信してはいけない(飲酒運転を想起させない)」
などのスポンサーの要望や戦略に沿って日本テレビ営業部の方が配信設定を行います。
そして設定した通りに配信されるかをシミュレーターやテスト配信を行い入念に事前チェックします。
3. 本番当日対応
ライブ配信本番では配信エンコーダー(映像や音声をインターネット上で配信可能な形式にするための機器)のオペレーションを行います。
配信エンコーダー(イメージ)
また配信本番中は様々な視聴環境を想定して、複数のデバイスを用いて配信映像の監視も行っています。
監視で使用する各種デバイス
CTV/WindowsPC/Mac/iPad/iPhone/Android
ではライブ配信TD業務の実際のケースとして、パリ五輪配信での業務をご紹介します。
パリ五輪配信を担当
パリ五輪が開催されたフランスと日本とは7時間の時差があるため、今回のオリンピックは深夜帯中心の配信となりました。
また普段の国内イベントでは2~3時間程のライブ配信が多い中、パリ五輪では最長12時間を超える日もありました。
初めてのビッグイベントで長丁場という事こともあり開始前は不安で一杯でしたが、いざ開幕すると緊張が良い方向に働いたのか、眠気に襲われることもなく何とか乗り切れました。
■ 配信エンコーダーのオペレーションについて
1. 「フタ(蓋)」オペレーション
「フタ」とは「開始までしばらくお待ちください」「再開までお待ちください」「配信終了しました」などの文言が入った“上から被せる映像”のことです。
進行に合わせてこの「フタ」を適宜切り替える操作を行います。
配信視聴に馴染みのある方は本編前に「開始までしばらくお待ちください」のフタをご覧になった事があるのではないでしょうか。
このフタから配信映像に切り替える(フタを開ける)事で本番映像が配信されます。
毎回のことですがこの最初の切り替え(フタ開け)は手動で行うのでマウスを握る手が震えるほど緊張します。
場面で使い分けるフタ画像各種
今回のパリ五輪では権利的に配信できない映像もありました。例えば陸上競技では、選手紹介VTRに世界陸上の映像が使われているものは権利上配信不可となります。
そこで対象の映像が出ている間は「再開までお待ちください」のフタを使用し、配信に映らないように対応していました。
2. 「CM挿入」オペレーション
TVer配信では基本的には放送と同じタイミングでCMが流れることが多いですが、CMの内容は放送とは違う配信用のCMが流れます。
五輪前まではCMも手動で挿入していました。ミスが許されない重要な広告配信ということもありCMのたびワンクリックに全身全霊状態で対応していました。
パリ五輪では長時間配信でCMの回数も過去に例を見ない程多い事もあり、放送と連動して自動でCMを入れられるシステムを日本テレビICTエンジニアリング部とNiTRo配信チームが共同で構築して臨みました。
自動化されたことによりオペレーションの負担は劇的に軽減する事ができました。
配信中の現場
■ 五輪配信を終えて
今回の大会期間中のライブ配信はトータルで約60時間となりました。
体力的にも精神的にも本当に大変でしたが、多くの方々のサポートに支えられ無事乗り切ることができ、パリ五輪は私にとって忘れられぬ特別なオリンピックになりました。
今後はこの経験を後進たちに広く伝えていきたいと思います。
今回の大型イベントの経験を活かしスキルを向上させ、技術進歩が止まらない配信技術の世界で取り残されぬよう日々精進してまいります。
作業中の筆者 (X Games Chiba 2024の現場)