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報道カメラマンが潜る「意味」

2018.09.28 制作技術

日本テレビ報道局には特殊取材をする「ドローン班」「山岳班」、そして水中の取材に対応する「水中班」があります。

私が所属する「水中班」では潜水技術、水中撮影スキルの向上のため、年に2回訓練を行っています。
今回、伊豆で行われた訓練の様子を、水中班に加入し初めて参加した私がレポートします。

 

■ まずはプールで練習
初日はプールで泳ぎの練習をしました。私以外にも初参加者がいたこともあり、まずは泳力をつけるため、片足のフィンを脱いだり、水中でマスクを外して目をあけて泳いだりといろいろなパターンで、1km以上練習を行いました。
体力的にはかなり辛いのですが、水中に慣れているベテランの先輩方も一緒に泳ぎます。

 

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プールを20往復! 立ち泳ぎの練習

 

次にエアータンク、潜水器材を装備して水深のあるプールに移動し、装備と体重に合ったウエイトの確認、BC(浮力調整装置)の扱い、耳抜きしながら潜ったり中性浮力をとるなど、基本的なことからしっかり確認、練習していきます。
水中での取材は基本行動を怠るとすぐに事故に直結してしまいます。
水中でトラブルが起きないよう器材のチェックやセッティング、自分の使う器材は自己責任で行います。

ちなみに水中班のメンバーは全員、民間でとれる「ダイビングライセンス(Cカード)」と国家資格である「潜水士免許」を持っています。

 

■ いよいよ海へ!
翌日、さっそく朝から海での訓練に入ります。
訓練はもちろん、水中撮影訓練です。カメラを交代でまわしていきます。
ダイビングがまだまだ不慣れな私は、ただみんなについて行くので精一杯でした。
水中カメラを持つ余裕は全然ありません。
急に浮いたり、沈んだりと何も持たない状態なのに安定しないのです。

 

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1ダイブ40分ほど潜ると海中にも徐々に慣れてきて、伊豆の多様な生物を観察する余裕が出てきました。大小いろんな魚やウツボ、エビなどに出会え、泳いでいて楽しく、これが訓練であることを忘れそうになります。

 

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撮影対象となった「卵を守るクマノミ」

 

3本目のダイブで、私に撮影の順番が回ってきました。水中で初めて持ったカメラは、持つだけでバランスを崩し体が沈んでしまいます。水中で留まることも出来ません。
体が沈んでしまうため、私は足をバタつかせて砂埃を上げてしまうミスを起こしてしまいました。水中で砂埃を上げると、視界も悪くなりますし、魚も逃げてしまいます。

同じ場所で、先輩カメラマンがやり方を見せてくれました。
その場に漂うように静止し、カメラを両手で持ち、足の動きだけで方向転換や寄ったり引いたり細かい移動をします。ダイビング技術の差を痛感しました。

行きたいところへ行けず、ズームやフォーカスも安定せず、ましてや動く魚を撮ることは、ホントに難しかったのですが、慣れている先輩カメラマンは「水中だと機材が軽いから陸上より撮影が楽だ」と言っていました。

先輩カメラマン達はガラパゴス諸島の生き物や、ミクロネシアのトラック諸島で戦争の沈船を追ったドキュメントなど、世界のいろいろな所で潜り撮っていたそうです。

私たちは普段の取材でも、ただ撮影するのではなく、現場を切り取り視聴者にわかりやすく表現することを考えながらカメラを回しています。それでも上手くいかないこともあるので、日々練習、勉強を重ねています。

 

■ さいごに

水中のような難しい環境で、滅多に出会えない生き物、海底の遺跡、沈没船などを撮るとき、目の前の事象にとらわれ過ぎると、ただの記録カメラになりがちです。
それだけではドキュメント作品にはならず、報道カメラマンが潜る意味がありません。
水中でも地上と同じように意思をもったカメラワークが出来ることが大切なのです。

 

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  筆者

3日間の訓練で5本潜りましたが、それだけでは、先輩達のスキルに全然追いつきません。
意思を持ったカメラワークなんて偉そうに言いましたが、私はまだ何も持たなくても自分の思うように泳ぐことすら出来ていないのです。
早く先輩達のようなドキュメントを撮れるよう、プライベートでも積極的に潜って練習していこうと思います。