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テレビの底力を感じる仕事!

2018.08.03 制作技術

世界を熱狂させたFIFAワールドカップロシア2018。
グループステージ第一戦を白星発進した日本代表、決勝トーナメント進出に期待のかかる注目の第二戦。日本中が注目したその中継の様子を、NiTRoから中継業務スタッフとしてロシアへ渡った筆者が技術的側面からリポートします!

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エカテリンブルク・アリーナ外観 日本vsセネガル 6月24日18:00キックオフ

ロシア連邦中央部に位置するエカテリンブルクという大都市にある「エカテリンブルク・アリーナ」で行われた、第二戦の日本vsセネガル戦。
決勝トーナメント進出の可否をかけた本試合、深夜キックオフにもかかわらず多くの人がリアルタイムで視聴していました。
乾選手・本田選手のゴールは本当にシビれましたね!結果を追い求めて走り回る侍スピリッツ、本当に感動しました。
ところで試合中継を観戦していた視聴者の皆さんは、セネガルの選手より日本の選手が多く映像に映っていたことに気が付いたでしょうか?
結果は引き分けだったのに、日本選手のインタビューばかりが放送されることに気が付きましたか?
日本代表を応援する我々日本人にとって「日本代表選手を見たい」という心理は自然なことですが、世界にはセネガル代表を応援する人たちも沢山います。その人たちがこの中継を見ていたら、もっとセネガル選手を映せと言うでしょう。

しかしその心配はありません。6月24日(日)に日本の皆さんがテレビで生観戦していた映像は日本配信用として作った映像なのです。
世界中のサッカーファンが観戦する映像は、HBS(Host Broadcast Services)という国際配信用の映像・音声制作を担当する組織が作っていて、私たちはこの国際配信用の映像・音声素材をもらいつつ、独自に撮った、準備した映像&音声を組み合わせて日本配信用の放送を完成させます。今回は日本配信用として11台のカメラを増設しました。
日本の視聴者が試合を観ていてより一層日本代表を応援したくなるような、興奮するような中継を目指して我々も放送を作り上げています。中継はコンテンツそのものにドラマがあるものですが、それをよりドラマチックに、コンテンツそのものの魅力を最大限に引き出すことが出来るのが、私たちテレビ制作に携わる者の一番の醍醐味なのです。

ではその日本配信用の放送を、どうやって海外で作り上げているのでしょうか?
今回の日本戦中継のためには制作6名、アナウンサー3名、解説者2名、技術10名を含め、総勢50名前後のスタッフがロシアに渡りました。
しかし、日本スタッフによる日本のための日本の作り方での放送とはいえ、機材からスタッフから全てを日本からまかなうのは大変なことです。
そこで、海外の技術会社と協力することでシステム・機材や人員を補填し放送を作り上げています。外国人スタッフと放送プランを話し合いながら放送に向けてセッティングしていきます。
通訳をしてくれるコーディネーターさんもいますが、直接コミュニケーションをとる時は自力で英語とボディランゲージを駆使です!

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日本戦を制作した中継車内の様子 外国人スタッフと打合せ中の筆者

国際配信用の音声は、大きく分けると「会場内の歓声や盛り上がりを集音したアンビエンス」と「実況・解説のコメント」の2つがあります。
国際配信のコメントは英語なので、放送には日本語のコメントをのせるように準備する必要があります。スタジアムには「コメンタリーブース」と呼ばれる場所があり、HBS管轄の機材を使ってアナウンサーと解説の皆さんに実況・解説をつけてもらいます。
HBSが準備した「アンビエンス」の音を録るためのマイクが会場内に沢山たてられており、私たちはその信号をもらって、日本戦がよりエキサイティングに観戦できるように、コメントとアンビエンスのバランスを調整します。ある種の演出です。やりすぎた演出はいけませんが、人々の心を深層心理的に動かすことのできる、そういう力が音声技術にはあると思っています。

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中継車内のオーディオルーム 一緒に放送を作り上げた仲間たちと記念写真

四年に一度の貴重な経験、そして世界的に注目度の高い仕事なので、やりがいは抜群です。あらためて、テレビの底力を感じる仕事でした。
そして実務としては海外との考え方の違いに驚き、これまでの慣れ親しんだやり方の中にも新しい発見がありました。一方で、慣れない地で初めて会うスタッフと、コミュニケーションをとりなんとか放送までこぎつけなければならない難しさを痛感しました。技術者としてだけでなく人として成長できる場がそこにはありました。
FIFAワールドカップに限らず、今後はラグビーワールドカップや東京オリンピックといったビッグイベントもまだまだ控えています。
その時にどんな映像・音を届けられるか、今からワクワクしています!

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仕事を終えてほっと一息の筆者