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日本テレビの歴史に新たな1ページ

2016.08.29 制作技術

2016年「THE MUSIC DAY 夏のはじまり。」。
日本初、いや世界初かもしれない地上波生放送音楽番組での「純国産スパイダーカム」の導入だ。
今までもスポーツやライブ中継では既に導入されていたが、生放送の音楽番組、しかも11時間、108曲の長時間で、プログラミングとマニュアル操作を織り交ぜた運用は、自分の知る限り世界初である。

■ スパイダーカムとは
そもそも「スパイダーカム」とはドイツのCCSytems社が2000年に開発し、SPIDERCAM GmbHが商標を持つ空中特殊撮影機材であり、カメラヘッドをワイヤーで四点吊りにする事で縦横無尽に動き回る事ができるカメラシステムである。

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今までも様々な現場で運用されてはいたが、テレビの音楽番組で多用されていなかったのは、
まず歌番組独特の「カット割り」の存在が大きかった。
通常、音楽番組での特機(テクノクレーン等)のオペレートは、この「カット割り」を基にカメラマンが
オペレーターに意志を伝える事でイメージ通りのワークをしてもらい、映像を作り上げていくため、カメラマンとオペレーターのコンビネーションが不可欠となる。
海外製である「スパイダーカム」は、万が一、機材NGになった場合の不安と共に、オペレーターもほぼ外国人であるが故、細かいニュアンスを伝えるためのコミュニケーションが難しく、なかなか運用に踏み切る事が出来なかった。

■ 純国産で実現
しかし今回、撮影用特殊機材会社である 株式会社SISが「純国産スパイダーカム」を製作していたという情報を知り、運用を検討する事となった。
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【SIS正式名称:フライングモンタ 以降「フラモン」と呼称】
オペレーターは日本人(SIS社長)であり、コミュニケーションの問題はクリアできたが、まだまだ未知の部分も多く、運用のためには更なる情報も必要だった。

そもそも「THE MUSIC DAY」の制作陣も、この「フラモン」には前向きな姿勢ではあったが、技術としては「今までの映像クオリティーを下げる事なく、新しい映像効果を!」という命題をいかにクリアするかが課題だった。





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そこで早速「SIS」と打ち合わせを始め、一度「フラモン」を使用している現場を視察させて頂き、更には福岡の工場にも赴いて、実際にオペレートをさせてもらう事で日本テレビの音楽番組にどこまで対応可能かの検討を重ねていった。









■ 次なる課題が・・・

次なる課題はカメラヘッドの「可動範囲」だった。
「フラモン」は前述の通り、ワイヤーを四点で吊る事で縦横無尽に動き回る構造であり、吊り位置を「広く」「高く」すればするほど可動範囲は広がるのだが、そのワイヤー導線に障害物があると可動範囲は一気に狭まる。
ライブとは違いテレビ番組という枠の中では、美術セットや、照明を吊るためのトラス(支柱)も必須となってくるので、この「フラモン」のワイヤー四点の吊り位置をどこに固定し、いかに障害物を減らす事ができるかが重要になってくる。
ここからは、何度も現場下見と図面での打ち合わせを繰り返しながら、美術・照明チームの協力の下、最終的にはアリーナレベルをほぼ網羅するまでの可動範囲にする事ができた。

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※青色部分「フラモン」が可動範囲


















image6.jpgここまでの打ち合わせの中で、なんとか運用までの目途が立ったが、やはり実際現場でセッティングし、映像を出してみないとなかなか不安は取り除けないのも事実である。
そんな中、ついに現場セット日となった。
システム面ではVEチームの多大なる尽力の下、「フラモン」のセッティングが完了。
「フラモン」チームのベースはステージから最後方の一番見通せる位置。万が一ワイヤーがトラスやケーブル、テクノクレーン等に干渉する危険を防ぐため、目視でも確認出来るように、またカメラマンとしてもカメラヘッドの位置が確認しやすくするために視界が開けている場所とした。





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そして実際に映像を見ると今までの不安は払拭されてしまった。
まだ音にも合わせていないが、見ていてワクワクする程に 可能性を秘めた映像がそこにはあった。
ここまで来ると、この先はカット割りの中で「フラモン」を最大限に生かす為、カメラマンとパイロットのコンビネーションを洗練する事が全てになってくる。
リハーサルが始まり、OAまでの限られた時間の中でカメラマン・パイロット、更にはエンジニアを含め、現場で幾度となく練習と打ち合わせを行い、精度を限界まで高めていく。

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■ ついにOA!

そしてついにOAが始まった。
番組をご覧頂けた方には、その映像の「凄さ」は伝わったかと思う。
自分はカメラをオペレートしつつも「フラモン」の映像を見るたびに何度も「カッコイイ!」と思ってしまった。
image10.jpg今まで地上波の音楽番組では見た事が無い映像が次々と出てきたからだ。
あれほどまでに、ホール上空を自由自在に動き回る映像を見た事があるだろうか。









■ 最後に

「フラモン」を導入するまでの道のりは決して平坦では無かったけれど、その映像には制作・VE・照明・美術チームの全スタッフの協力とSISのスペシャリストの方々、更には尊敬する先輩カメラマンの努力の結晶がそこには溢れていたと思う。

また今回、素晴らしい先輩カメラマンからの信頼を得て、チーフカメラマンとしてこの現場に携われたことを感謝すると共に、番組を成功させる事が出来、自分自身もカメラマンとしての大きな財産となった。