アール・エフ・ラジオ日本では、今年で10回目になる
「東京マラソン2016」の生中継(2月28日8時45分~11時50分)を行いました。
ラジオ日本で働くNiTRoスタッフ10名も総出でこのビッグイベントに取り組みました。
ラジオ日本としては、日本テレビと同じく2年振り5回目の担当となります。
2年前の経験と、毎年やっている箱根駅伝のノウハウを活かして音声プランを考えました。
(箱根駅伝の現場レポートは過去の記事『ラジオ日本の箱根駅伝』をご覧ください)
下の図はざっくりした音声系統図ですが、目がチカチカする方は飛ばしてOKです。
レース現場は中継車1台とランナーと一緒に走りながらのランナーリポート、
それに4か所の中継ポイントで構成されており、これらの音声は汐留の放送センターに集められます。
ここで実況・解説を加えて完成音声を作り、マスターに送ります。
中継では、現場レポーターと放送センター実況とで掛け合う場面も必要ですので、
放送センターの音声を各現場に届ける"送り返し"の回線も構築します。
それでは各現場の模様を簡単にリポートしましょう。
【汐留・放送センター】
中継の心臓部である放送センターは、日本テレビの協力をいただき、
汐留・日本テレビタワーのとある一室をお借りしました。
↑放送センターの設営
ここにラジオ日本の機材・ケーブルを持ち込み、丸々2日間かけて設営しました。
↑<前列>ディレクター・実況・解説 ↑<後列>技術スタッフ
そして本番当日。
放送センターの前列席には、実況アナウンサー・解説者・ディレクター・ADが陣取り、
TVの中継映像を参照しながら実況します。
我々技術スタッフと制作スタッフは後列。
当然ですが、本番中は実況・解説以外は「大声厳禁」です。
しかしそこは気心の知れた仲間同志。小声で話したりジェスチャーを使ったり、
手書きのメモを渡したりと、様々な方法でコミュニケーションを取りながら番組を進めます。
TVのサブコンでは様々な大声が飛び交いピリピリムードが充満しますが、
こちらも違った意味での緊張感があります。
ディレクターのささやき声がとても重要な指示だったりしますから、聞き漏らしたら大変です。
↑各所mix卓 ↑最終mix卓
各中継ポイントからの音声は、様々な変換器と回線を通って放送センターに集まってきます。
それらは最初にセンターの"各所mix卓"で音声レベルと音質を整えられたのち、
"最終mix卓"に送られ、そこでセンターの実況・音声がmixされて完成音声となります。
また、最終mix卓では、他にもCMの前後に流れる、
"ジングル"と呼ばれる短い音楽なども出せるようになっています。
↑<後列>制作スタッフ卓
制作スタッフの前には、東京支社マスターとのインカム・
中継車とのインカム・各所との連絡用電話があります。
センター 「今の実況が一区切りついたら、雷門からリポート入れてください」
雷門 「了解。スタンバイOKです。キューお願いします」
センター 「雷門のあと、センターが短く締めて、ジングル入れてCM行きます」
マスター 「了解。秒読みお願いします」
みたいな感じで、放送の裏側でいろいろな連絡をヒソヒソやっているわけです。
【東京都庁前・スタート】
8時45分に放送開始。
東京都庁前はこれから巨大ロックコンサートが始まるかのような異様な雰囲気です。
スタート前のセレモニー、国歌斉唱などがあって徐々に盛り上がっていきます。
ノイズマイクを駆使してこれらの臨場感を伝えます。
↑都庁前・音声卓
そして、9時05分にまず車椅子ランナーがスタート。
続いて9時10分にエリートランナー・一般市民ランナーが都庁前をスタート。
ゴールである東京ビッグサイトを目指して37,000人が駆け抜けていきます。
しかし、「全員がスタートしたらこの場の仕事は終わり、はい撤収」というわけにはいきません。
ノイズマイクはそのまま生かしておき、番組の最後までセンターに現場音を送り続けます。
これは都庁前だけではなく、どこの中継ポイントからも同じように現場音を送り続けます。
その理由としては、放送センターで作っている音は実況と解説の声だけなので、
どこかの現場の音をmixしなくてはなりません。レース中は沿道の声援をメインにmixしますが、
レースが終わって落ち着いたときは、センターにいるミキサーが各所から送られて来る現場音から
適当なものをチョイスして、あるいは複数をmix して"バックノイズ"として使っている、というわけです。
【東京タワー】
ラジオ日本では毎回東京タワー大展望台に中継ポイントを構え、
レース全体を俯瞰できる場所からリポートを入れています。
本番では技術スタッフは同行せず、アナウンサーとディレクターの2人で、
ラジオマイクを使用し、麻布台の東京支社で中継波を受信。
さらに東京支社から放送センターに音声を送ります。
また予備としてPHSも用意し、こちらは放送センターに直接繋ぎます。
ラジオマイク?聞きなれない言葉ですね。
これ、ラジオ局専用のマイクという意味じゃないですよ。
発信装置のついたマイクのことです。
ワイヤレスマイクのプロ仕様版、と思っていただいて結構です。
実は、ラジオ日本の東京支社は東京タワーのすぐ足元=麻布台にあるので、
東京タワーにいるアナウンサーのリポートはラジオマイクから発信されて、
東京支社でその電波をキャッチできるというわけです。
【浅草・雷門】
↑雷門・実況席
浅草の雷門前のとあるビルをお借りして中継しましたが、
この現場でも、ラジオマイクを使用しました。
また出ました、ラジオマイク。
実は雷門中継ポイントでは、スペースの都合から
実況するのはビルの1階プレスエリアで、技術スタッフがいるのは3階だったのです。
1階から3階までケーブルで結べば確実なのですが、
このビルを使っている方々にご迷惑をかけてしまいます。
そこでラジオマイクを使って、1階から3階まで、
直線距離にして10メートル程度ですが電波を飛ばした、というわけです。
3階の技術陣は、実況とノイズマイクのバランスを取って音声をmixし、放送センターに伝送しました。
雷門前の声援は大盛り上がりで、迫力のある音声をお届けできたと思っています。
【中継車】
これがラジオ日本の中継車です。かっこいいでしょ?
しかし、中はスシ詰め状態です。
助手席にアナウンサー、後部座席の両端にディレクターと技術スタッフが1名ずつ。
その間に機材がギッシリ。ほとんど身動きできない状態です。
↑助手席のアナウンサー ↑後部座席中央
今回は携帯電話回線で、機種の違う音声変換装置3個を使い、
3回線で伝送しました。
中継車からの伝送で一番心配なのは電波が途切れること。
そこで、事前にコース全体を試走し、
電波が途切れそうなポイントを入念にチェックしてから本番に臨みました。
中継車からの音声3回戦は、すべてが一度東京支社に送られ、
最も回線状態の良いものを放送センターに送りました。
幸い、本番中はほぼ音声が途切れることがなく中継ができました。
伝送プランニングを担当したスタッフもホッと一息です。
【ランナーリポート】
今回は、ラジオ日本のレギュラー番組『峰竜太のミネスタ』で
アシスタントを務めるA・Hさんに一般ランナーと一緒に走っていただき、
随時リポートを入れてもらいました。
A・Hさんには制作スタッフも技術スタッフも伴走せず、
携帯電話を1本だけ持ってもらいました。
ランナーに余計な物を持たせられませんので、
これで放送用のリポートと放送センターとの連絡用を兼ねることにしました。
A・Hさんからは、エリートランナーによる真剣勝負が行われている裏で、
一般ランナーの様子や補給ポイントの様子など、
ランナー目線からのホットなリポートを入れてくれて、
番組として良きアクセントになったと思います。
ただ、オーバーペースが祟ったのか終盤にバテてしまい、
放送センターにいる解説者に「回復の秘訣を教えてください」と
泣き言リポートを入れてきたのはご愛嬌でした。
【東京ビッグサイト・ゴール】
観客席ひな壇の最上階がラジオ日本の実況席です。
吹きっさらしで寒いことこの上ないですが、
そこは毎年芦ノ湖(箱根駅伝)で鍛えている猛者が
技術を担当しているので、防寒対策はバッチリです。
↑実況席から見たゴール地点 ↑ゴール地点・実況席
臨時INS・臨時アナログ回線のふたつを使用して、センターに音声を送ります。
エリートランナーは2時間10分くらいでゴールしますが、
一般ランナーは制限時間ギリギリまでかけてゴールに向けて走ってきます。
注目選手のゴール実況が終わっても、放送が終わるまでは、
ゴール地点のPAノイズを生かし雰囲気を伝えます。
ビッグイベントが終わったあとの"余韻"を伝えるのも音声マンの大切な仕事です。
こうしてラジオ日本にとって、2年に一度のビッグイベントが終わりました。
スタッフの皆様、長い1日、お疲れ様でした!
【最後に】
ラジオ放送は、テレビと違って"音だけが勝負"です。
特にスポーツ中継では、現場の迫力と臨場感をどうやって届けるか、
かつ実況・解説の音声をいかにクリアーに聞かせるか、
ベストミックスを求めてミキサー1人ひとりの力量が試される場でもあります。
ラジオは画がない分、音から色々と想像することができます。
そこがラジオのメリットでもあります。
これからも、リスナーさんの想像を掻き立てるような、
その場の映像が浮かんでくるような音作りを目指して行きたいと思います。
ラジオ日本は、今シーズンも東京ドーム巨人戦を全試合生中継します。
観戦に行かれる方も、旅先や運転中の方も、
もちろんお家にいらっしゃる方も、ぜひラジオをAM1422に合わせていただいて、
"私たちの作った音"をお楽しみください。
筆者(放送センター担当)